シリーズ第6戦、最も過酷と言われる鈴鹿1000kmで今シーズン初優勝を飾ったものの、続く第7戦タイラウンドはピットインで痛恨の作業ミス。結果、まさかの13位でノーポイント。これでチャンピオン争いでは鈴鹿優勝でランキングトップに立ちながら一気に3位に後退。
ランクトップと13ポイント差で最後の戦いを迎えることになった。厳しい状況ではあるがチームスタッフ、そしてドライバーも、誰一人諦めてはいない。見据えるのは今季2勝目、そして逆転の初タイトルを手にすること。
ツインリンクもてぎはLEON CVSTOS AMG-GTにマッチしたテクニカルコース。
マシンポテンシャルを引き出して予選3番手に食い込む
Super GTは獲得したポイントに応じてウェイトハンディが課されるが、蓄積されたハンディが第7戦で半減され、最終第8戦ではでハンディウェイトが撤廃される。ハンディなしは今季開幕戦と同じことを意味する。LEON CVSTOS AMG-GTはその開幕戦、岡山国際サーキットで予選決勝ともに2位を記録している。ツインリンクもてぎが同様のテクニカルコース、黒澤治樹選手も「ここはストップ&ゴーのレイアウト。立ち上がり加速のいいマシンに合っている」と語っているのを思えば期待も大きく膨らむ。
練習走行の後に行われた予選、まずは黒澤治樹選手が乗り込んでQ1のアタック。「クルマのバランスは良かった」と5番手タイムをマークしQ2に進出。バトンを受けた蒲生選手も気合のタイムアタックを見せたが3番手。トップとはわずか0秒265差だったが、無念なのはそのトップがランキングトップ、同じMercedes AMG GT3の4号車だったことだ。4号車に乗る谷口信輝/片岡龍也組は今大会、ポールポジションの1ポイントを加え決勝前にその差は14点に開いた。タイトルはさらに厳しくなったがチームが見すえるのはあくまでも優勝し、その結果のタイトル獲得だ。3番手なら十分にそれを狙える。黒澤選手も「決勝のペースはライバルより良いと思う」と期待を寄せていた。
タイヤの温まりが遅くスタート直後に後退するも、フロントタイヤ2本のみ交換で大きくポジションアップ
迎えた決勝は青空が広がり燦々と陽光が降り注いだ。路面温度も上昇しスタートを迎えるころには気温19℃、路面温度25℃に達していた。これはチームが望んだ状況だった。なぜなら予選でライフが長くタイムダウンの少ないハード目のタイヤを選択。これは決勝のスタートにも使用しなければならないためだ。路面温度が上がればタイヤの消耗が激しくなるがLEON CVSTOS AMG-GTのタイヤは最後まで安定したラップタイムを刻むことができる。ここでチームは秘策を決断した。それはフロントタイヤのみの交換でピットインのロスタイムを最小限に抑えることだったが、誤算があった。「タイヤの温まりが予想以上に遅かった。あと半周あったら……」と、スタートを担当した黒澤選手が語ったように、タイヤが本来の性能を発揮できず、スタート直後に次々先行され、1周目を終えて6位まで後退してしまったのだ。しかし黒澤選手は踏ん張った。順位こそ変動しまたものの、タイム差ではトップに大きく離されることなくしっかりと走りきり、17周終了でピットイン。蒲生選手にバトンを渡した。そして作戦は成功した。ガソリン補給とフロントタイヤ2本の交換でコースに復帰した時、終始トップを走行し前の週にピットイン、タイヤ4本を換えた4号車の前に出たのだ。
残り2周でついに蒲生選手がトップに浮上!
今シーズン2勝目のゴールを駆け抜けた!
4号車の前に出たもののまだ誤算があった。2番手スタートからタイヤ無交換でコースに戻った55号車ARTA BMW M6 GT3がトップに、そして4番手スタートからリアタイヤのみ交換の25号車VivaC MC86が2位に浮上していたのだ。それでも勢いは蒲生選手にあった。「クルマもタイヤも良かった。最後までフルプッシュした」と猛追。中盤の32周目に25号車を抜くと、その時点で11秒以上もあった55号車との差を信じられないような勢いで削り取って行った。ツインリンクもてぎを埋め尽くした36,000人の大観衆が見つめたその時は残り2周となった48周目だった。メインストレートでついに55号車を抜き去ったのだ。LEON CVSTOS AMG-GT&蒲生尚弥選手は残り2周を危な気なく走り切り歓喜のチェッカーフラッグを受けた。
無念なのは4号車が3位に入りタイトル争いは4号車77ポイント、65号車72ポイントに終わったことだ。だが最後の戦いは王者を打ち負かすものだったことも事実。全スタッフが大きな自信を、そして「来年こそは」の思いを共有して2017年シーズンを終えた。
黒澤治樹 「スタートはタイヤの温まりが予想以上に悪く抜かれてしまったが、その後はいいペースで走ることができた。元々フロントタイヤが厳しかったので2本交換は最初から決めていた。尚弥にいい状態で渡したかったのでリアタイヤを消耗させないように走った。今年初めて使用したBSタイヤだったが、すごく良くなった。来年につながるレースができたと思う」
蒲生尚弥 「クルマもタイヤも良かったので最後までフルプッシュできた。タイトルに届きそうだったので悔しい思いはあるが、BSタイヤになって1年目でここまできたことは、来年につながる。今年よりいい結果を残せると思う。僕にとって得ることが多かった1年でした。すべての人に感謝したいです」