年に一度、日本を離れてレースを行うのが恒例となっているスーパーGTシリーズ。その開催国がマレーシアからタイに移されて、今年で3回目。富士をも上回る高速サーキット、タイ・ブリーラム州にあるチャーンインターナショナルサーキットが、その舞台である。タイは熱帯に位置するため、年中気温は高いうえに、この時期は雨季ということもあり突然スコールに見舞われる可能性も。強く降っても、せいぜい30分から1時間でやむとはいうものの、もし走行中に見舞われたなら! どうあれ、過酷な戦いとなることは避けられそうはなかった。
開幕戦で悲願の初優勝を遂げたLEON CVSTOS AMG-GTは、その代償としてウエイトハンデ40kgを背負ったばかりか、第2戦からBoPによる性能調整で合計80kgもの重量増を強いられたこともあり、その後は不運な展開もあって入賞すら果たせぬレースが続いていた。だが、前回の鈴鹿では、通常より3倍以上長い1000kmもの長丁場で粘りのレースを見せ、黒澤治樹選手と蒲生尚弥選手は8位でフィニッシュし、久々の入賞を果たすこととなった。
現在のドライバーランキングは8位。しかし、今年のGT300はポイントの分散が目立ち、ポイントリーダーとの差は23ポイントでしかない。そのうえ、ウエイトハンデはまだ48kgとあって、十分に勝機はあると予想された。何より前回のレースで入賞を果たしたことで、チームには再び上昇ムードが――!
土曜日の晩、サーキット周辺を強烈なスコールが襲い、早朝の路面はウェットコンディション。これは天候に苦しめられるかと思われたものの、強い日差しが路面を急速に乾かし、公式練習が行われる頃にはほぼドライコンディションに戻されていた。
ある意味、日本よりも熱狂的なレースファンが集うことで知られるチャーンインターナショナルサーキット。太鼓やホイッスル、そして熱い声援がドライバーに送られスタート時刻が近づくにつれ、それらはさらにヒートアップしていく。そのことが天候をも刺激したのか、決勝レース前後にはこの週末一番の暑さに。それまでは30度を超すか越さないか程度の気温が33度まで上がり、路面温度に至っては44度にも達していた。今回のLEON CVSTOS AMG-GTのスタート担当は黒澤選手。気温や路面温度同様、いきなりアツい先陣争いからレースは開始された。
このコースはグランドスタンド前のストレートからターン1、ヘアピンがストレートでつながれるため、よりストレートパフォーマンスに優れるFIA-GT3の猛攻を食らい、黒澤選手はふたつポジションを落としてしまう。そればかりか、3周目には後続車両から接触をも受けることに。その際にマシンにはダメージがほとんどなかったのは、まさに不幸中の幸い。いきなり13位からのレースとなってしまったが、その後はペースを落とすことなく、黒澤選手は周回を重ねていく。
そして、25周目には蒲生選手とバトンタッチ。いったんは順位を落としたLEON CVSTOS AMG-GTだったが、黒澤選手が先頭とタイム差をあまり広げられることなくペースを作ったことと、素早いピットワークにより、ドライバー交代を済ませると10番手に返り咲くこととなる。その後、メルセデス同士の激しいバトルを繰り広げた末に、ついに蒲生選手は終盤、9番手に上がり、先行車両のリタイアもあって、直後には8番手に躍り出ることとなった。
しかし、好事魔多し。あと2周、7位のポジションをもとらえたかに思えた蒲生選手が突然のペースダウン。ピットに滑り込んでくるではないか。原因はガス欠乏症だった。急きょガソリンを補給して、コースに戻されたLEON CVSTOS AMG-GT。その間に11番手まで後退し、挽回を許されぬまま、無情にもチェッカードフラッグが振り下ろされることとなった。
悔しい結末となってしまったものの、ラスト2戦はオートポリスでの第3戦代替レースを含めた土日の2レース開催。大どんでん返しも期待できる、その大会にLEON CVSTOS AM-GTはトップから30ポイント差で臨むこととなった。この差は大きくもあり、小さくもあり……。いずれにせよ、年間王座獲得の可能性を残す限りは全力を尽くそう、そうドライバーもスタッフも誓い合って、灼熱のサーキットを離れることとなった。